シンポジューム(リゾートホテル久米アイランド誕生秘話)
1.
島尻郡仲里村(現在は久米島町)字真我里マガイ底原411番地の荒れ果てたままの24,845.4㎡の敷地は、その昔パインの加工工場だった。
崩れ落ちかかった工場の姿は、活気に満ち溢れていた頃そこで働いていた人たちの目には、ハイエナに食い散らかされたライオンの屍のように映るのだろう。
敷地の一角にはかつて外国人労働者が寝泊りしていたと言う宿舎が、辛うじて原型を保っていた。
その土地を、島内のエビの養殖で生計を立てていた会社が購入した。
利用意図不明のままの買い物である。
当時、その会社にはエビを作るためだけの「技術屋」として雇用された若い養殖場長が居たが、何事にも抜け目のないその会社のオーナー社長は、彼を「よろずや」として使いまくっていた。
「技術屋」もまた、オーナーの特異かつ大なる発想・金銭的バイタリティー・不屈の精神に引かれ、喜びを感じつつオーナーの夢のような話を一つずつ実務的にこなしていた。
思案の末にその土地を、ゴカイの養殖に使おう、と言い出したのはオーナーだった。
釣り餌に不可欠なあのゴカイだ。
地味な養殖ではあったが、宮古島や沖縄本島では何とか採算の取れる業種の一つだ。
養殖とあらばそれは「技術屋」の100%責任範疇になる。
「私は」ゴカイ養殖に関するあらゆる資料を取り寄せ、策を練ることになる。
遠浅のビーチから如何にして海水を取得するか?
あいにく、隣接にANA直営のリゾートホテル(イーフビーチホテル)が連日のように、全裸同然の「内地」の若い娘を奔放に遊ばせている。
ひまわり模様のビキニにゴカイ糞尿の垂れ流しは、明らかにアイランドリゾート・久米島に、そぐわなかった。
排水にポイントを置くのも「技術屋」の責務だ。
これはダメだ。
「ホテルを作ることにした。」
オーナーが言ったのは、私が「だめ!」を進言しなければいけない、同じ日だった。
私は即座にホテル設立に向け、走った。
エビ屋がリゾートホテルを作る。
これ以上面白い仕事はない。
だが、何もわからない。
私たちは姑息にも既存のイーフビーチホテルの施設平面図をリーフレットから拡大コピーし、客室/エントランス/ロビー/レストラン/ラウンジ/バー/売店などを鋏で切り取り、マガイ底原の地籍図に「貼り絵」をする。
客室を同数にすれば、付帯設備面積も同等で叶うはずだ。
草案平面図を、養殖場施設設計でいつもお世話になっていた、一級建築士根路銘さんに依頼し、諸許可申請書に耐えうる物に書き換えてもらう。 同時に、当該ホテルを運営する子会社(久米総合開発株式会社)を設立。
隣接住民及び村の同意書、県に対する開発許可申請、融資先の沖縄開発金融公庫へのアプローチ。
銀行筋に不可欠な事業計画書の内、「収支計画表および資金計画表」は、もちろんANAホテルズの実績決算書を密かに入手し、養殖場の税理士事務所が書き上げたものだ。
設備は資金があれば簡単に整う。
だが、その設備を誰が動かすの?
過去同じ質問に対し、今までは「お前だ。」を連発してきたオーナーは、この時初めて唸った。
「誰かいないかなア。」
困った時、いつもの私の行動パターンは、「その道の知人に相談する事」。
早速、当時唯一観光・旅行業界に進んでいた札幌時代のラグビーの先輩、比良久氏に連絡をとり、「どうすればリゾートホテルが出来るの?」と、問うた。
ご返事はいとも明快なものだった。
「俺が行けばできる。」
KNT海外ツアーディレクターの肩書きを持ち、年間250日の海外出張の実務をこなしていた、比良久氏に現在所得の1/3になる事をお約束し、久米島に10日後には住民票を移していただいた。
KNTの上司に当たる方々から
「お前が欠ける為に発生する損失は計り知れないが、君が人生の一つのチャンスに、エールを送る。」
温かいお言葉を戴いたようだった。
紳士の企業だ。
2.
かくして、プロジェクトにソフト部門の長(総支配人)を迎え、以降2年の歳月を経た6月、久米島では始めての75ルーム/プール付き本格リゾートホテルがプレオープンする。
ゾートホテル・久米アイランドがその名前だ。
「7月になれば満室となる。 プレオープン期間中に一度満室経験をさせておかないと危険だ。」
以前からの総支配人からの懸案に対し、既に策を講じていた。
全日本クルマエビ養殖シンポジュームなるものが、毎年開催されている。
交通の便のいい福岡周辺が今までの開催地だった。
これを久米島に誘致してしまおう。
沖縄県クルマエビ養殖漁業組合を通じ、主催者全日本クルマエビ養殖協会に打診し、承諾を得る。
13時から17時講演会、18時懇親会、久米島の養殖場をくまなく見学させること。
これが基本的条件である。
推定参加人数150名。
ホテルの客室をツインユーズした場合の満室に匹敵する。
問題は当日13時までに150名を如何に久米島まで運ぶかにあった。
当時の那覇・久米島間を飛ぶ航空機は64人乗りのYS-11のみで、しかも最も利用が集中すると思われる、福岡からの乗り継ぎで13時に間に合う便は1便しかない。
フェリーおよび高速船等海路を利用しても、間に合わない。
脆弱な団体とはいえ、私たち業界の生産した活きエビは総て日本各地から、航空機を利用して市場に運ばれている。
「言うなればクルマエビ養殖業界とあなた達、航空輸送業界とは運命共同体だ。 私たち業界の更なる発展が期待される今回のシンポジューム成功のため、超法規的対応を持って協力願う。」
むちゃくちゃな理論と、あらゆる方便を使い、SWAL(南西航空)・OAS(沖縄エアカーゴサービス)・日通航空・ANA・JALへ交渉を重ねた。
3.
一週間前から久米島のあらゆる要所に「歓迎!全日本クルマエビ養殖シンポジューム」なる横断幕が掲げられた。
仲里村・具志川村・久米島交通を始め、島内の受け入れ態勢も万全な中、当日を迎えた。
東京・大阪・福岡・鹿児島・奄美の各空港および沖縄本島・宮古島・石垣島からの参加者が予定通りの時間に那覇空港に集まる。
すかさず、南西航空YS-11臨時便2機に分乗。
35分後に久米島空港に降り立った彼らは、待機済みの久米島交通大型チャーターバス4台にて、講演会会場である仲里村公民館へ速やかに移動。
17時再びバス4台によりホテルに移動、チェックイン後、ホテル内の懇親会会場へ。
微塵の隙もない見事な流れであった。
立食の懇親会会場のテーブルには総料理長以下厨房スタッフの気合の入った豪華な和洋中が並ぶ。
オプションには島の海人がサバニで釣り上げた黒マグロの姿造り、もちろんクルマエビの踊りがその周りを囲む。
会場がざわついているのは感嘆の声に違いない。
おかしい。
何か変だ。
挨拶を誰も聞いていない。
ざわめきが一段と大きくなっている。
会場を取り仕切る料飲支配人のみならず、陰で見守る総支配人の顔色が変わる。
何処かに落ち度があるのか? だがミスは見当たらない。
沖縄県クルマエビ養殖漁業共同組合山城組合長の乾杯の御発声と同時に、集団は一斉に食い物に飛びついた。
その瞬間、私は悟った。
「しまった! 昼飯を食わす時間を用意するのを、忘れていた。」
リゾートホテル久米アイランドはその後幾多の嵐を潜り抜け、現在ホテル日航久米アイランドとしてその美しい姿を、はての浜に続く海面に、いまでも映している。
2004/07/28 升
画像①②は地図ナビから拝借。
③はヤフーマップから拝借。
④は根本佳恵撮影。
⑤⑥は当該ホテルからの頂き物。
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コメント
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投稿: 誕生日 | 2020/05/23 16:44