密集戦
その昔は3k(危険・汚い・きつい)を代表するスポーツと日向でも言われた。
いつも傷だらけの体に、ボロボロで汗臭い泥にまみれたジャージを着こみ、失神する直前までグランドを走り回っている、若かりし私たちの周りには女の子の姿は皆無であった。
その後、新日鉄釜石・神戸製鋼などの社会人チームのみならず早・明・慶の学生チームの、華やかかつ強烈な印象から、競技場を溢れさせるばかりの日本ラグビー黄金時代を迎えた。
しかしいま、その人気(観客動員数・視聴率)は再び低迷している。
現在ではプレーヤーの安全を期するためルールが大幅に改革され、ジャージも艶々と美しく輝くものに変わっているのだが。
その大不人気の最大の理由は国際ゲームに全日本チームが全く勝てず、しかも100対0スコアの大敗を続けていることにある。
先のワールドカップに於いても外国人監督が率いる8割がたが外国人の日本代表チームも結果は同様であった。
ラグビーと同じフットボール属であるサッカーが国際レベルの中にあっても、ほぼ対等或いは優位の戦力を獲得している現在、これは忌々しき現実である。
小学校入学と共にサッカー教室に入った孫に対し「あんなもんよりラグビーをやれ!」とは胸を張って言える時代ではなくなってしまった。
一方、ルールが判りにくいのも観客が増加しない理由の一つであろう。
ゲーム中度々発生する両選手相まみれた「団子」状態をラグビー用語では「密集戦」と呼ぶのだが、これは文字通り密集(人垣)の中の争いでその内部でなにが行われているのかはTVのクローズアップでさえ捉えられない。
密集内部の「秘密の出来事」はプレーヤー特にフォワード経験者でないと理解が叶わないものなのであって、一般の観客にとっては不満を抱く大いなる部分と云えそうだ。
密集戦には「モール(maul)」と「ラック(ruck)」の二種類があって、ボールが空中にある状態をモール、地面にある状態をラックという。ラックでは手を使ってはいけないのが特異ルールだ。
内部では双方の選手がボールを奪い合うため、レスリングや柔道の寝技に類似した極めて激しい格闘を展開するため細かいルールが定められていことは言うまでもない。
昨日、不本意ながら数十年ぶりにモールに巻き込まれた。
東京大手町読売新聞社前。
箱根駅伝ゴール地点両側の歩道を埋め尽くした群衆は身動きもままならぬまま、実際には見えない、選手のゴールを見守っていた。
突然私の横から「どけ!とおせ!」の弩声と共にあの懐かしい強烈なプッシュが襲ってきた。
数年前のルール改正でモールを潰すことが合法になっていることを知る私は早速そのプレイを実施するため、該当選手の上半身に手をかけるべく(下半身を攻撃すると反則)振り返った。敵は顔をゆがめたお年寄りだった。
「あんたねぇ!そんな乱暴なことすると怪我人がたくさんでるぜ!」
「ごめんなさい。わたしトイレがもう我慢できなくて!」
老妻らしき人が敵の後ろから青い顔をして謝罪した。
We got badly mauled in the ruck!(凡人の集団の中で我々はひどいめにあわされた!)
駅伝はTVで見るに限る。
2012/01/04 升
注)
「ruck」:凡人の集まり。
「maul」:木槌・かけやの名詞の他、袋叩きにする・ひどい目に合わせる等動詞活用がある。
画像①国府津駅前
画像②藤沢15キロ地点
画像③戸塚駅前(kunko)
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