密航船水安丸乗船者を追って ②
紅のこと
2.
和名ベニザケは、サケ目サケ科の魚で英名はSockeye Salmon(サッカイサーモン)。
サッカイとはカナダ先住民族の言葉で「赤」を意味するらしい。
体長は平均60cmほどになり、体重は4kgほどで最大7kgに達し、寿命は4~5年。
分布は、北米ではカリフォルニア北部からアラスカ北部まで。
アジアではベーリング海、カムチャッカ半島、オホーツク海、千島列島、北海道の太平洋岸、三陸沿岸。
生活史は極めて複雑で、川の上流でふ化した稚魚は、稀にそのまま降海するものもあるらしいが、殆どは下流の湖で1~2年過ごしたあと海に降りる。
海で2~3年成長した親魚は、生涯で一度だけ、故郷の河口から遡上しあの湖を経て更なる上流のあの川へ戻り産卵・放精し、そして死ぬ。
川が突然せき止められてしまい海に降りられなくなった鮭鱒を「陸封型」といい、紅のそれを日本ではヒメマスと呼んでいて大きくならない。
有名な支笏湖のヒメマスは天然陸封種である阿寒湖産を移植したものだ。
外敵の多い海で産卵するより、ふ化した川が最も安全であるという理由で、産卵遡上する鮭鱒類の中で、紅は最も母川回帰性が強いという。
川の匂いの記憶をたどって回帰するといわれるが、水面を跳ねて視覚その他の感覚を使って位置を確認しながら遡上すると云った説もある。

私の工場で加工される紅は皮の方から見ると銀鮭となんら変わらないピカピカの銀色。
だが身は他の鮭鱒類に比べても非常に赤い。
これは川を遡上する前の海域で捕獲されたことを意味していて、繁殖のため川に入るとオスは背中が盛り上がり鼻も曲がり、体は婚姻色で真っ赤になり頭は緑色に色づく。
産卵が近づくと肉を赤く染めていた色素が皮に移り、肉は赤身がうす薄れ、白っぽくなっていくらしい。
メスの場合は、皮だけでなく、卵にも赤い色素が移る。
だからイクラは赤い。
イクラに赤い色素を使うので、メスの皮の赤さは、オスに比べてやや薄いという。
ところで、カツオ・マグロ・ブリなど赤身の魚の身が赤いのは、ヘモグロビンやミオグロビンという、赤い色素タンパク質の量が多いから。
一方、ベニザケなどサケの肉が赤みを帯びているのは、食べ物の浮遊甲殻類(エビ・カニ・アミ類など)に含まれるアスタキサンチンという色素が肉に移るからで、サケは、学問上、白身魚に分類される。
カナダ産の紅についてカナダ観光局CANADA THEATRE (こちら)を見つけたのでついてここで少しだけ紹介した。
画像が美しいので是非ウエブサイトをご覧いただきたい。
さて、Delta,BC Canadaが加工地である紅の話に移ろう。
カナダ ブリティッシュ・コロンビア州デルタはリッチモンド市のあるルル島とフレーザー川(南アーム)を挟んだ対岸にある地域で河口に開いていると言っていいだろう。
フレーザー川はカナダロッキー山中に源を発し全長1,375kmに及ぶ大河で、年間3000万匹ものベニザケが500km.先の産卵場所に向かって遡ることもあるという。
ところが、カナダは鮭の資源管理については非常に厳格なお国柄だ。
毎年一定量の鮭を河川に遡上させる事で資源を維持していて、鮭の資源量が少なく充分な遡上が見込めるまでは漁獲を全面的に禁止する事を行なっている。
その昔、紅漁の最盛期であるはずの8月に現地を訪れた築地業者のリポートを例に挙げると、
『現在までの状況は、当初の840万尾の資源量予想が試験操業の結果310万尾に下方修正され、
資源保護のため必要とされる遡上魚450万尾のうちまだ100万尾程度しか通過させていない事を考えると
現在のクローズ状態が解除され漁獲が再開するのはむずかしそうな気配になっている。』
としたうえで、
『また現在まで漁獲された分も、好調な国内消費向けの生鮮出荷と値段の取れる激辛タルベニ(私の工場で使っているものと同じ)に向けられ、
日本企業の期待するフローズンについては殆ど生産しておらず、
缶詰向けの原料不足まで心配する状況のよう。』
と予測していた。
すなわち、我が工場で使うペール缶の(タルベニ)が欠品するのは、遡上する鮭を河口でいちいち計数している、カナダ政府の優れた水産資源保護政策にその源があるようだ。
2016/10/29 升
*画像はウィキペディアより拝借しました。
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