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2016/10/23

密航船水安丸乗船者を追って ①

紅のこと

1.

 ペール缶と呼ばれる乳白色プラスチック容器に収められた紅鮭の塩漬が私の勤める加工場に常駐するようになってからもうじき20年になろうか。

 容器に貼り付けられた品名表示は当初"Sockeye Salmon Fillets"だけだったがいつの間にか"O Karashio"が加えられた。

 

 頭と内臓を除去し、カマ付きのまま三枚に下ろされたフィーレが15キロ入れられたペール缶、過飽和強塩水に満たされ缶底には溶けきれない塩が2~3センチ沈殿している。

 このペール缶は、蓋が「タッパ」と同じ理屈で打ち付けられていて、横転しても水を漏らさない構造になっている。
 これを開けるには、ペンチやハンマーあるいはドライバー等では歯が立たず、特別な道具が必要だ。
 おそらく、その道具は水産物卸売場市場内付属の道具屋でしか手に入らないだろう。

 近年、ほとんどの塩蔵鮭の類は「新巻き」でさえ、その流通管理はマイナス18度以下の冷凍が当たり前になっているが、重たくて流通業者に嫌われるこの食材は冷蔵管理が必須だ。

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 その紅鮭フィーレは私たちの手で規定量(当初は60g/切だったが原材料の高騰の為次第に小さくなり現在は50g)の切り身にされ、パッキング専用工場に移送、1切れあるいは2切れでラッピング、百数十店舗を持つスーパーの店頭に翌日の開店時から並ぶ。


 スーパー側でいわゆるアウトパック商品と言われているこの商品は、パッキング専用工場でラッピング工程と同時に一切れ250円の売価シールが貼られる。

 刺身用のバチマグロの柵の平均相場298/100gと比較すると、恐ろしいことに500/100g(現在価格)になる。

 一切れ250円の鮭の切り身がその昔から変わらずに日平均500切れが消費されている。

焼き上げると表面にビッシリと塩が浮き上がるほど塩辛いのだが、フレーク状にして握り飯や茶漬けに少しずつ使うと癖になる程の味だ。

従って、店頭からこの商品が消えると、スーパー経営陣の重鎮にも「中毒患者」がいるらしく、一般顧客を含めてひと騒ぎになる。

 通常、量販店とアウトパック加工場とのやり取りの中で欠品事故の場合、売価×欠品数量(売価保障という)といった金銭で解決され売価保障だけでも厳しいペナルティーである上に、度重なれば言うまでもなく取引停止になる。

 従って、アウトパック加工場としては欠品事故を起こさないがために、商品発送2時間前に着信する発注書に記載されてくる受注数を数日から十数日前に予測し、原料の手配からマンパワーをも含めた作業スケジュールを組んで待機することが重要な業務になる。

 

 当該話題の商品名は「大辛紅鮭切り身」というのだが、過去、原料在庫切れの為度々欠品した。

 この紅鮭フィーレは珍しいことにスーパー所属のバイヤーによって直接メーカーと取引されたもので、我我はそれを委託加工しているだけで、原料切れによる欠品は責任の外になる。

記憶では、流通過程の何れかでマイナス温度管理されており身がスポンジ状になった凡そ500ケースが我々の判断で処分された時。
 スーパーの委託している千葉県船橋市在の営業冷蔵庫が、東日本大震災による地盤沈下が原因で扉の開閉に障害を帰した時。
 などの大事故由来原因以外にも、単純な「在庫切れ」がおよそ2年おき位に発生する。

 その紅鮭(以降我々がいつも呼んでいる「紅」と記す)はカナダからはるばる太平洋を渡って来る。
 何年か前にスーパーのバイヤーと共にメーカーの経営者が訪れた。
 名刺をつまむ女性プレジデントの 指のほとんどに、大きな石の付いたリングが嵌められていたのを覚えている。

 日本人のお顔立ちと日系のお名前をお持ちで日本語を完璧にお使いになる彼女の経営する会社の住所は、Delta,BC Canadaだった。
②へ続く

2016/10/23

 

 

 

 

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