密航船水安丸乗船者を追って ⑦

ドン島とライオン島のその後

　水安丸乗船者のその後の消息を辿る前に、彼らのなかの多くの人たちの拠点となった、及川島（ドン島）と佐藤島（ライオン島）のその後をお知らせする事にしよう。

小説「密航船水安丸」のなかで新田は、甚三郎の長男泰二郎がカナダから引き揚げて佳景山を訪れた際（1924年）、及川島の多くの住人は他の仕事や学校など島より便利な土地へ移って行ったと報告したと、記述している。

しかし、水安丸乗船者の一人である鈴木源之助氏の次男のシング鈴木氏（実兄はバック鈴木）の報告では1924年頃の及川島が一番賑やかだったとしている。

さらに、同じく水安丸乗船者の一人である及川千代見氏の遺族が蔵する1935年（昭和10）頃の及川島内での集合写真には14名の夫人と共に15名の幼い子供達がにこにこ顔で映っていたりする。

また、及川島の住人だった畠山雄記・志のぶ夫妻と及川千代見・たけし夫妻の帰国がそれぞれ1934年（昭和9）、1939年（昭和14）のことである。

従って、1924年（大正13）云々の記述は新田の創作によるものと思われる。

水安丸関連のカナダ側で一番新しい論文（デビットブラウン　「ドンとライオン島における日本人の漁村の歴史と人種差別の影響」2016）によると、ライオン島西端にあった缶詰工場（ユアン・キャナリー）が閉鎖された1930年（昭和5）以降、日本帝国が起こしたパールハーバー事件から派生する日系人強制収容所収監1942年（昭和17）まで、いくつかの家族が島に残ったとしている。

1956年（昭和31）の航空写真ではユアン・キャナリーの建物は確認できるが、ドン島の建物は皆無である。

1968年（昭和43）に海洋曳航会社が選別施設のためにドン島を買い取り、島は即座に川砂に覆われた。

1979年（昭和54）「密航船水安丸」発行の年には、日本人がかつてここで暮らした僅かな痕跡を残して、両島の樹木を含む全てがクリアされた。

1995年（平成7）には行政区メトロバンクーバーに購入されフレーザー島保護区に指定される。2004年（平成16）、島々の真北にあるシェルターアイランドマリーナの社長テリー・マクファイルが、両島の歴史的意義を表すために「佐藤島」と「及川島」に島名を変更するようリッチモンド市に提言したが、島名は水安丸100年祭までに変更はされていない。

2016/11/27 升
⑥へ戻る　⑧へ続く

引用文献

*新田次郎　密航船水安丸　講談社　1979

*山形孝夫　失われた風景　日系カナダ魚民の記録から　未来社　1996

*The History of the Japanese Fishing Village on Don and Lion Islands and the Effect of Racism

Report Prepared at the Request of the Vancouver Maritime Museum, in Partial Fulfillment of Geog 429: Research in Historical Geography, for Dr. David Brownstein  April 1, 2016
(ドン島とライオン島の日本人漁村の歴史と人種差別の影響
2016年4月1日、バンクーバー海事博物館の要請により、デビッド・ブラウンスタイン博士のためにGeog 429:Research in Historical Geographyの部分的履行で作成された報告書)

*MATERIAL LIFE AND SOCIO-CULTURAL TRANSFORMATION AMONG ASIAN TRANSMIGRANTS AT A FRASER RIVER SALMON CANNERY

© Douglas Edward Ross 2009  SIMON FRASER UNIVERSITY  Spring 2009
(フレーザー川のサケ缶詰工場におけるアジア系移民の物質生活と社会文化的変容
© ダグラス・エドワード・ロス 2009 サイモン・フレイザー大学 2009年春学期)

画像　Nikkei T.V