ジンタンガラスの冷奴Ⅱ
沖縄に出かけた事のある人は一度は眼にしたことがあるはずの土産物の一つに「スクガラス」があります。
超有名なので今更なのですが、スク=アイゴの稚魚、カラス=塩漬け、で「稚アイゴの塩漬け」のウチナーグチです。
アイゴの卵は初夏に海藻などに産み付けられ受精後1~2日で孵化します。
仔魚たちは流れ藻などに付いて表層を漂いながら動物プランクトンを食べて大きくなります。
およそ1ヵ月で3㎝程度の稚魚になると食性が変わり、沿岸域に入り込み、海藻を好んで食べるようになります。
アイゴは背鰭の棘に毒がある他に、海藻を摂餌すると内臓や表皮から異臭を発するため、「バリ(尿)」と呼ぶ地域があるほどに流通から敬遠される魚です。
ゆえに漁獲圧が低く、三浦半島の相模湾側では大量のアイゴ成魚が海藻を食べ尽くし、沿岸域に磯焼けを起こす騒ぎが起きていました。
沖縄では、旧暦で6~8月の1日(ついたち)、新月の大潮時に満ち潮に乗ってリーフの割れ目からラグーン域に群れを成して押し寄せるアイゴの稚魚(スク)を捕獲する風習が古くからあります。
「海からの贈り物」といってお祭り騒ぎ、スクがまだ海藻を食べ始める直前のワンチャンス的な漁と云えるでしょう。
水揚げしたばかりのスクを100㌔程づつ分け合って買い付けた土産店は、樽の中で塩漬けし、熟成を見計らって、お婆が店番をしながらあの小さな魚を一匹づつ箸を使って瓶に並べていきます。
腐るものではないので慌てる必要はなんにもないさぁ~、です。
頭を下に、向きを揃えて先ず1段目を、瓶底の内壁に張り付けます。
そして、その円周の内側に同じく頭を下にした魚を隙間なく刺し込んで埋めていく。
2段目以降も同じ手順で積み上げて瓶の口いっぱいになったら漬け汁を並々と注ぎ蓋を閉じます。
こうしてのんびりと仕上げられ、小瓶の中でバッキンガム宮殿の衛兵みたいに並べられた、商品は昔からかなりの高値で売られていました。
他にイカや姫シャコ貝の塩漬けが同じ便で売られていましたがただ塩辛いだけで、いわゆる発酵食品の旨味を感じる物はスクガラスただ一つでしたので、高額であっても納得できる土産物でした。
なにぶん、経済的価値が小さいためなのかこの魚のあらゆる方面での資料に乏しく、総漁獲量すら数字が見えないなか、図3のデーターは貴重です。
今は、比較的漁期の長いフィリピンで獲られた原料を用い、並べることなく乱暴に小瓶に充填されたそれを良く見かけるます。
なんだか悲しいですね、昔の様にもっと大事に丁寧に並べて欲しいものです。
丁度スクと同じくらいの大きさのアジを流通筋では「ジンタン」と呼んでいます。
豆アジとも云いますが「仁丹」がその語源です。
トロ箱いっぱいギッシリと収まった銀色の豆粒が「仁丹」輝きに見えたのでしょう。
ジンタンは大きくなっても海藻は食べないから大丈夫。
今年の旧暦6月1日は新暦の7月16日、沖縄のスクの初水揚げに先駆けて、早くも湘南ではジンタンが揚がっています。
頭も鰓腸もそのまんま、塩をまぶして瓶に詰め、冷蔵庫に入れるだけ。
我が家の瓶は、5年前から毎年ジンタン継ぎ足しの年代物。
底知れぬ風味が八丈のクサヤを上回り夏の冷奴を更に旨くする逸品です。
新参のホタテひも明太と味比べ、島豆腐の代わりに木綿でどうぞ。
2024/05/03 升
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