カテゴリー「うみ業のウンチク」の122件の記事

2024/01/30

歌島航路

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50台の車両と、500人の旅客を収容できる伊勢丸は、10台に満たない車と15人ほどの人を乗せ、定刻の10:50音もなく鳥羽の港を出た。
振り返ると保安庁の巡視船いすゞの向こうに、一昨日お世話になった、ホテルが山の上に聳えている。
4Lサイズの本ズワイ肩肉と5㌘に切りそろえた刺身、食べ放題の夕食を思い出す。

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400円の追加料金を払いブリッジ直下の展望特別室で気分は船長。
BMWで乗り込んだご夫婦がベンチシートで寝込んでいる以外に人はいない。
寝ているだけなら下の座敷でいい筈だが?


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答志島と菅島の間の穏やかな島並を抜けた途端、大きなうねり逆巻く外洋に出る。
太平洋と伊勢湾の境目を横切る航路だ。
真正面の島らしき陸地に進路を取っていた本船が取舵を切り始めたころ、左舷から小さな高速船に追い抜かれ、同じ彩色のフェーリーとすれ違った。

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伊良湖発の僚船鳥羽丸。
時計は出航後30分経過の11:20。
鳥羽⇔伊良湖全便同時刻発の伊勢湾フェリー、丁度この辺りが航路の中間点に違いない。
両船とも西の強風を受け、舳先からしぶきを吹き上げている。
木の葉の様に波に翻弄されていた高速船が二時方向の島の防波堤に吸い込まれていった。
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その頃合いに船内放送。
「右手の島は神島で御座います。およそ150世帯、人口300人。三島由紀夫の小説「潮騒」の舞台になった島です。」
島の北側の急斜面一帯に上に広がる不思議な住宅街、見取れるうちに通り過ぎ、慌てて撮った写真は見事な逆光。
先の高速船は、鳥羽から答志島和具港を経由してきた鳥羽市営定期船で、この波の中11:25神島港着の定刻運行だ。

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突然あらわれた三島由紀夫。
人口千二、三百、戸数二百戸、映画館もパチンコ屋も、呑屋も、喫茶店も、すべて「よごれた」ものは何もありません。この僕まで忽ち浄化されて、毎朝六時半に起きてゐる始末です。ここには本当の人間の生活がありさうです。たとへ一週間でも、本当の人間の生活をまねして暮すのは、快適でした。(中略)明朝ここを発つて、三重賢島の志摩観光ホテルへまゐります。そこで僕はまた、乙りきにすまして、フォークとナイフで、ごはんをたべるだらうと想像すると、自分で自分にゲツソリします。
— 三島由紀夫「川端康成宛ての書簡」(昭和28年3月10日付)より―

この島は、三島氏が古代ギリシアの恋愛物語ををモチーフに小説を書きたいと、〈都会の影響を少しも受けてゐず、風光明媚で、経済的にもやや富裕な漁村〉を条件に水産庁に依頼して探してもらった島で、文中では「歌島(かじま)」とあるように古くはそう呼ばれていたという。
氏は昭和28年の春と秋、島の漁協組合長の屋敷にひと月の間寝泊まりして執筆されたとの事。私には三浦友和・山口百恵夫妻の映画が記憶にあるが、これまで5回も映画化されていて、昭和29年の初回映画の神島ロケの際には氏も見学に訪れたという。
その頃の千二三百の人口は今や1/4の300人にまで減り、映画館もパチンコ屋もないままだが、旅館・食堂・喫茶店はそれぞれ一軒づつあるらしい。
もっと早く教えてくれたら、あの高速船に乗って、神島に降りていた筈だ。

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自分の無知を恨んで席に戻ると、正面から波を突き破って疾走する船が来た。
船首の青い「横S」マークは保安庁の所属船。
PC58の記号と放水銃を備えているところから、「よど型消防巡視艇」と判明。


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普段は伊良湖港に停泊している第四管区・四日市海上保安部に所属する「あおたき」だ。
PC(Patrol Craft)35メートル型、アルミニウム合金製で、高速ディーゼルエンジン2基を搭載し、スクリューではなくウォータージェット推進器を採用している。
25㌩以上の航行能力があるからこの時全速前進車並みの時速60㌔は出ていたかもしれない。
どこかで船舶火災があったのだろうか?
「あおたき」の後姿を追って船尾側のデッキに移動している内に、本線は渥美半島に接岸した。

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定刻の11:50キッチリ1時間、船旅を久し振りに満喫した。
2024/01/30 升

参考資料:鳥羽市HP・ウイキペディア

 

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2024/01/22

「こちら第三登喜丸」Ⅴ

 昨年、水産分野の日本最大の研究機関である、国立研究開発法人水産研究・教育機構(FRA)の水産資源研究所横浜庁舎で行われた一般向けに催されたミニ講演会の傍聴時に、席上でマグロ資源担当の研究者が、
「しっかりとした科学的根拠に基づいた資料をもって臨まないと、ああゆう国家間の戦争(会議)で、負ける。」
と、話していたことを思い出した。

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余談だが、様々なラベルがベタベタ貼られたあの「一番マグロ」の頭に普通あるはずのラベルが一つだけなかった。
FRAの「調査依頼」のラベルで、購入者から解体後の頭部を回収し研究材料に用いる為のもので、水揚げ港でFRA所員が魚体をチェック・記録した上で目印で貼るとの事だ。
例えば耳石を採取すれば少なからず年齢が解かり、DNAから系統が分析可能だ。

考えて見れば12月31日はほとんどの機構職員は正月休みだったに違いない。
ゆっくり英気を養って次の「争い」備えて頂きたいものである。

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今年度の日本の漁獲枠拡大はあくまでも小型マグロの漁獲量を削減したことによる振り替えの特例処置であったが、來年度の国際会議ではクロマグロ資源の明らかな増加を見据えた大規模な漁獲可能量増大を提案すると水産庁は目論んでいる。

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かつて私たちは魚を獲る「漁具・漁法」という学問を学んでいたが、今や漁撈の技術は、種を絶滅に追い込むに足る水準に達している。
水産庁は未成熟のマグロを獲らないことによってマグロ資源の回復を促し、的確な採捕量のコントロールによって持続可能な資源維持を奨励している。
遊漁ではリリースという言葉でよく耳にする行為を水産庁では「放流」と云わしめている。
水産分野で使われる「放流」という言葉は、人の手で育苗された稚魚を自然界に放つ行為で代表されてきたが、漁獲規制での「放流」は遊漁の「リリース」の同意語なのだ。
あの1/7に放送されたTV東京「日曜ビックバラエティー」の中でも、大間の老練の一本釣り漁師が針にかかったマグロを「こまい」と言いながら、船に引き上げずにテグスを切っている映像が流れた。
その理由が、彼に配分されている小型魚のIQが既に上限に達していた為なのか、単に金にならないからだったのかは定かではない。
別の番組ではブリ狙いの定置網に、既にその業者に与えられた漁獲枠を超過しているクロマグロがたまたま入り込んだが為に、入網していたブリ共々一網全部海に戻す現場の様子が流されていた。

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顎に釣り針が刺さり、その先に数メートルものテグスを引きずった魚が、その後大洋で生きながらえて行けるものなのか?
遊漁の現場では海中でのファイトの末、豪華クルーザーに引き上げられ吊るされ、Vサインを出す髭面サングラスの男たちと一緒に写真を撮られた挙句、「一人一日一本まで」の国が決めたルールに則り、海に「リリース」される二本目以降のクロマグロの姿が多々目に浮かぶ。
ネットニュースを見れば、お隣韓国で定置網から放たれたと思える、大量のマグロが砂浜に打ち上げられ異臭を放っている証拠画像を掲載している。

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小さな魚を獲らない技術は網を用いる漁業では、網目の目合いを大きくすることで調整で可能だが、その逆は成り立たない。
使う針も餌も同じ物を使う釣り漁業で、喰いつく魚の大きさを区別することは難しい。
ある漁師が云うように、
「ワイたちは魚を選べない、ただ魚がワイの仕掛けを選んでくれるのを待つしかないのさ」。

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この仕事、利根川北岸波崎にある、FRA神栖庁舎水産工学部漁業生産工学グループの頑張りに待つしかないのか。

2024/01/16 升

画像①は、2023/10月FRA水産資源研究所一般公開の際にマグロ部門コーナーにて筆者撮影。
その他は松竹映画「魚影の群れ」より拝借しました。
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2024/01/20

「こちら第三登喜丸」Ⅳ

水産庁は「大間事案等を踏まえた太平洋クロマグロの管理のあり方について」を昨年速やかに発表している。
まず、事件の捉え方についてまとめているので下記した。

 大間事案の概要1(昨年までの動き)
① 2021年8月 青森県大間からのクロマグロが安値で大量に流通して おり、漁獲未報告が疑われるとの通報が水産庁にあり、青森県へ事実確認等を依頼。
② 2022年8月 青森県は調査の結果、令和3管理年度(令和3年4月 ~令和4年3月)に 55.7 トン(大型魚54.9 トン、小型魚 0.8 トン)の未報告漁獲があったとして、水産庁へ漁獲実績の追加を報告。
③ 2022年11月 報告を踏まえ、水産庁は青森県の大型魚の漁獲枠(約490トン)の超過分等16 トンを令和4管理年度の同県漁獲枠から差引き。

大間事案の概要2(今年に入ってからの動き)
① 2月7日 青森県警は、漁業法違反で産地仲買2社の社長を逮捕したと発表(未報告の疑いのある数量は合計約98トン)。3月7日までに社長らと共謀した漁業者22名と水産関連会社1社を書類送検。
② 3月10日 青森地検は産地仲買2社の社長2名を起訴、漁業者22名と水産関連会社1社を略式起訴することを決定。起訴された未報告数量は合計約74トン 。
③ 同月中に、漁業者22名と水産関連会社1社に対し、罰金10~20万円の略式命令が出された。
④ 4月21日 青森県警主催の青森県、水産庁、県漁連、青森海上保安部の合同会議を開催し、関係機関で情報共有。水産庁からも、青森県に対して、過去の漁獲報告分を含め徹底して調査し、報告すること等を改めて要請。
⑤ 5月9日 起訴された者の初公判。

そして、大間事案等を踏まえ現在実施している主要な港等の現場確認から判明した現状の主な問題点として、
① 通常の陸揚げ時間や陸揚げ場所以外で陸揚げする場合なども含め、TAC報告を裏付ける陸揚げの状況を確認する手段が不十分。
② 取引の単位が個体毎の場合、その取引伝票と漁獲枠管理のため漁獲量(総量)を報告させるTAC報告内容との照合が困難で、行政による事後の個体毎の採捕の適法性の迅速な確認が困難。
③ 流通段階において、取引関係者による取扱物の採捕の適法性を確認する手段は口頭に限られ、流通が複雑になるほど、裏付けも困難。
をあげ、
今後、以上の問題点も踏まえながら、太平洋クロマグロの漁獲や流通に係る監視や制度のあり方も含め、再発防止や管理の強化を検討していく。

という甚だあいまいな方針にとどまっている。

この発表に伴って、現在までの「クロマグロ資源への取り組み」を図案化して下記説明しているので、この場では太平洋クロマグロに関しての項を、勝手ながら私感を交えて、紹介させていただく。
なお、各図はクリックで拡大されるので参照ください。

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私感:中国及びロシアの参入がないのが解せない。
漁獲量のほとんどを日本が独り占めしているように思われ、そのほとんどが文字通り一網打尽の巻き網で漁獲されており、延縄や一本釣り漁法での資源へ与える影響が極めて少ないように見える。


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私感:国内での養マグロが国内生産量の65%と天然物を上回り、全流通量の33%にも上っているのには驚いた。
私は、恥ずかしながら、血合いだらけのアラしか養マグロを購入した覚えはないのにも拘らず。

マグロの養殖はいまだ生餌に依存している傾向があり増肉係数は15との報告がある。
すなわち、養殖生産量21.5千トンの15倍32万トンのイワシやサバが養マグロの腹に収まっていることになる。
同じく水産庁の発表では、近年5ケ年間の日本近海のマイワシの漁獲実績平均はおよそ60万トンなので、水揚げの半分がクロマグロ魚肉加工の原料に供されていることになる。


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筆者注:TACとは、Total Allowable Catch の略称で 『漁獲可能量』と訳される。
IQとはIndividual Quota(直訳は個人の割り当て)の略で、個別漁獲割当制度(IQ制度)と意味される。

漁業者一人一人や漁船ごとに1年間の漁獲量を割り当て、割当を超える漁獲を禁止することで漁獲量の管理を行う制度である。
資源の枯渇を防げる効果の他、相場の高い時期を狙って出漁を促されるため漁業の経済的効率が活性するなどの利点の半面、大間問題の様な漁獲量隠匿や、漁業への新規参入の障害となり得るなど、参入割当量決定時に生じる諸問題などマイナス面も叫ばれている。
日本では、2011年に佐渡のアマエビのかご漁業で、初めて実質的なIQ制度が導入されている。

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筆者註:「配分の考え方」とは、水産政策審議会資源管理分科会クロマグロ部会が平成30年12月に策定し、令和3年 12 月 14 日一部改正した「令和4管理年度以降のくろまぐろの漁獲可能量の配分の考え方について」というタイトルに取りまとめられている(仔細はこちら)。
以下、要点のみ抜粋列記した。

Ⅰ 配分に関する論点

(1)経営の依存度
特に沿岸漁業においては、直近の漁獲実績をもって代替することが適当である。

(2)漁法の特性に起因する事項
混獲は、他の魚種を目的とした操業の際の混獲と、くろまぐろ大型魚を目的として操業した場合の小型魚の混獲があり、いずれの場合も配分に考慮する必要がある。

(3)資源の増減に対する責任
 小型魚を対象としたまき網漁業の乱獲がクロマグロ資源の減少に繋がったと考えられるが、他の漁業よりも4年早い 2011 年漁期から巻き網船に与える小型魚の漁獲枠を大きく削減しており、既に相応の負担をしているとの判断している。

(4)地域経済への影響
地域での経済効果や波及効果を一律に数値化することは困難であり、配分の根拠としては直接的な効果を及ぼす論点に絞らざるを得ない。

(5)その他の留意すべき事項
① 資源評価に用いるデータの収集とその精度の維持・向上 資源評価に用いるデータの精度向上は資源評価の向上につながり、ひいては漁獲枠の増大に貢献し得る要素であり、国や業界全体で長期的に対応する必要がある。
② 配分の根拠となる実績基準年の取り方は、漁獲管理を行うと実績に影響が出るため、漁獲管理を行う以前を基準とする必要があるとの意見もあった。
③ 産卵期の親魚の漁獲について、親魚の漁獲を控える場合、産卵期かどうかは重要ではなく、また、小型魚の漁獲を規制する方が将来の親魚資源回復に大きく貢献することから、配分の基本的な考え方において産卵期の親魚の漁獲については特に考慮しないこととする。
④ 漁獲量が漁獲枠に達しなかった状態について、努力して獲り控えた場合は、次の漁期以降の配分へ考慮すべきという考えがある一方、「獲り残し」については、我が国の漁獲枠を有効に使う観点から、例えば獲り残した地区と漁獲枠が足りない地区などの間で「融通」しあう仕組みが必要である。

Ⅱ 管理に関する論点

(1)国内のルールに関する事項
① 留保の取扱い
すべての漁業種類が配分された漁獲枠を守ることができるのであれば留保は不要であるが、国としての留保をゼロとするには時期尚早と言わざるを得ない(国の留保があることを理由に自らの漁獲枠を超過してもよい、と認識するモラルハザードに繋がらないよう注意が必要である。)。
② 大臣管理分の漁業種類の区分について
業界間で調整した結果を踏まえ、国として結論を示す必要がある。
③ 都道府県の漁獲枠管理
月別(期間別)の管理は、漁獲枠を遵守できず都道府県の漁獲枠を大きく超過する都道府県があったため、第4管理期間から導入した管理手法であり、我が国の漁獲枠を遵守する観点からこれを撤廃すべきではない。
④ 漁獲枠の融通
沿岸漁業は漁獲枠の管理に不慣れな中で管理に取り組んでいる状況であることから、各都道府県の漁獲枠の遵守を原則とした上で、来遊状況等に応じて漁獲枠を融通するルールづくりを目指す必要がある。
⑤ その他
配分の基本的考え方は、資源の状況や国際情勢の変化、さらには混獲防止技術の向上等も踏まえれば、固定するのでなく、一定の期間(複数年)ごとに見直す必要がある。また、柔軟性のあるルールが必要であり、状況を見つつ安定したルールに移行すべきである。


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私感:「漁獲規制によって増えすぎたマグロが、餌として食い尽くしているから、サンマやスルメイカがいなくなった。」と嘆く大間の漁師たちの言葉を裏付けるようなクロマグロの資源回復の数字で、来期以降の漁獲可能量の引き上げが充分期待されそうだ。

一方、水産庁は各地のマリーナ等の遊漁拠点にチラシを配布して遊漁者への規制にも取り組んでいる。

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水産庁HP「マグロ遊漁の部屋」より

さて、冒頭の「大間事案等を踏まえた太平洋クロマグロの管理のあり方について」の要点である。

太平洋クロマグロの漁獲枠について、中西部太平洋まぐろ類委員会は、太平洋のクック諸島で2023年12月4日から9日まで年次会合を開き、クロマグロの漁獲管理を議論した。

太平洋クロマグロについては、日本などが30キロ未満の小型魚の漁獲枠を減らす代わりに30キロ以上の大型魚の漁獲枠を増やす特例措置の拡大を提案していた事案について、各国が合意し、今年(2024)から導入されることが正式に決定された。
これを受けて水産庁は、来シーズンの国内のクロマグロの漁獲枠の配分について、国が管理している巻き網や流し網などの沖合漁業で、今シーズンより400トンあまり増やして4820トンにする。
他方、一本釣りや定置網などの都道府県ごとに管理される沿岸漁業では、来シーズンは1745トン余りと、今シーズンより5トン増やすだけらしい。ーNHKー


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県別では青森の漁獲枠が最大で、23年度は30キロ以上の大型魚で約565トン。
このうち大間漁協への配分が約221トンと4割近くを占め、2番手の三厩漁協
(津軽半島)の約83トンを大きく引き離す。
漁獲枠が大きければ、初競りで一番マグロに輝く確率も当然高まる。
つまりTACによって、大間ブランドはより盤石になったといえるだろう。
https://www.nippon.com/ja/guide-to-japan/gu900268/(ニッポンコム)

つまりTACによって、大間ブランドはより盤石になったといえるのだが、2024年度の漁獲枠が、2021年度の超過分更には現在調査中の20・19年度の隠匿超過分が差し引かれるとなると大間は苦しくなるだろう。
こう言った不心得者がいるから、日本が国として勝ち得たせっかくの「漁獲枠」の100%を末端の漁業者に振り分けられずに、一部を「保留」という国預り分が必要になるのだろう。

2024/01/15 升
続く
掲載図表は全て水産庁HPより拝借しました。




 

 

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2024/01/18

「こちら第三登喜丸」Ⅲ

報道では、「利益度外視の値段」とされているが実際の握りの値段はいかほどになるのだろう。



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図18 回転レーン内側で解体ショウ、先ずは頭が鋸で落とされる。

運悪く正義さんの仕掛けた延縄のサバに食らいついてしまった「一番マグロ」は、登喜丸に引き揚げられた時には、尾頭且つ内臓付き。
船上で処理されて総重量238㌔で銀座の回転寿司店にたどり着いた。

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図19 上身腹側のロイン
尾と鰓腸は既に落とされているから、このマグロは店内で頭をまず先に外され、次いで四つ割りにされ中骨を外される。
この時点で歩留まりは70%。
そして、四つ割り身(ロイン)は長さ20㎝弱に輪切りにカットされコロと呼ばれる形状になる。
業務用の流通はこの形状がほとんどだ。

Photo_20240111162901図20 腹身のコロ、みごとな大トロ

それから、コロの外側から見える、血合や筋それから皮が、研き落とされる。

歩留まりはさらに10%低下する。
ここからサク取り作業に移っていくのだが、この作業においても、コロの内側にある筋や血管部分は除去される。
一般の人が市中で見るマグロの姿、「サク」になるまでに刺身(寿司ネタ)に使えない部分がもう45%ほど出ている。

いよいよ刺身(寿司ネタ)に包丁を入れる段階だ。
刺身は、包丁の断面(切り口)が美しくないと誰しもが認めない日本料理の宿命から、一サクの一切れ目と最後の一切れは、味覚に変わりはないものの刺身盛りや寿司ネタに使うことは敵わずにせいぜい「ブツ」として利用される。
この最後の関門を潜り抜けて見事シャリの上に乗せられる「一番マグロ」の身は店内の回転レーンを越えてきた重量の50%ほどになってしまう。

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図21 トロ・赤身二貫セット

238㌔の「一番マグロ」からとれる寿司ネタの総量は半分の119㌔とする。
画像のネタは普通サイズより大きそうなので20g/切れとするとおよそ6,000貫分になる。
セリ値は48万/㌔だから早い話、{480+38.4(消費税)}
千円/㌔×2×0.02㌔=20,736円/貫(シャリ代抜き原材料費)となる。
店頭では税込み540円/貫売りと云うから、1皿2貫セットで40,392円の赤字になる計算だ。


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一方、登喜丸の正義さんの手取り金額はいかほどだろうか。
114,240,000円で落札した仲卸業者は、競りを開いた豊洲市場の荷受け(東水)に消費税を含めた代金を支払う。
東水は卸売委託手数料5.5%6,283,200円を引き、青森県漁連に送金。
県漁連は手数料1.5%1,713,600円を円を引き、大間漁協に送金。
大間漁協は手数料4%4,569,600円を差し引いた金額を正義さんの口座に現金を振り込む流れになるはずだ。

つまり、正義さんの口座にはセリ値から各関係手数料合計12,566,400円引かれた101,673,600円が振り込まれる。
この時点で正義さんの取り分はセリ値のおよそ89%。
しかし、税務署も黙っておらず、所得4千万円越えの最高所得税率45%が適用され45,753,120円の所得税が、さらに住民税(10%)10,167,360円を請求することになる。
結局正義さんの手元には、45,752,640円しか残らない計算で、セリ値のおよそ40%だ。
2024/01/13 升
続く

大間漁港に佇む房次郎の画像は松竹映画「魚影の群れ」から、それ以外はTV東京「日曜バラエティー」より拝借しました。

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2024/01/17

「こちら第三登喜丸」Ⅱ

全国の中央卸売市場は、昨年の31日から正月4日までを休み、昨日5日に開場した。
大間から過去ばれてきたマグロたちは、市場内の小揚げ業者に引き取られ、各荷主の指定する荷受けのセリ場に運ばれる。
豊洲の水産棟で東京都から許可を受けている生鮮物の荷受け(卸売業者)は、大都・東水・中央・第一・東市の5社。


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図10 豊洲市場大物売り場に並べられた生クロマグロ
登喜丸のマグロは指定された東水のセリ場に運ばれ、大物課の担当者の検品を受けた後、これから東水がセリにかける世界中から集められた全生クロマグロの列の先頭の位置の簀子の上に置かれ、「東水01」と書かれた紙の番号札を体に張られた。
「東水01」とは、この日のセリで東水が上場する生クロマグロの中で一番初めにセリにかける魚という意味だ。


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図11 東水のセリ場の登喜丸の
マグロ
下の画像はその拡大。背中に[01]の番号札が貼られている。右隣はセリ順2番。

荷受けが自社扱い荷物のセリ順を決めるのには理由がある。
入荷が少ない時など後に行くほど値が跳ね上がるパターンを予想した場合は一番高く売れそうな魚を後ろに置く。
逆に尻つぼみが予想される時には頭にそれを置く。
いずれも、その日の好ポジションにベストな魚を置くことによって付くはずの高値をもって、集荷したすべての魚の売値を引き上げる荷主優先の為の工夫と言える。
ご祝儀相場が当たり前の初売りで尻上がりのセリになるはずはなく、この日、大間漁協から委託を受けた東水が登喜丸のマグロを1番に据えたのはこの日の入荷で一番高い値が付くと見たマグロだったからに他ならない。
東水の目利きは確かで下見に回る仲買がこの魚に群がって離れなかったという。

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図12 2024初セリ前の被災者への黙とう

生マグロのセリはいつも5時から始まるのだが、この日は元旦に起きた能登半島地震の被害者への黙とうから始まった。
荷受けのセリ人の振るハンドベル、カランカランを合図にセリが始まる。
最初の一声はセリ人からの売値の提示。
この提示金額が重要でその日の相場の流れが決まってしまうと言っても過言でない。
恐らくこの日は20万/Kgくらいからのスタートだったろう。
次いで、買う気のある仲買や大手スーパーなどの許可を得た売買参加者が、一斉に手やりを出す。

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図13 セリ開始、画像中央左のセリ人の右手にハンドベルが握られている。

荷受けのセリ人は、提示された買い手の数字を瞬時に読み取り、競争を募って売値を揚げていく。

この日の2番目に高いマグロを競り落とした静岡の業者の証言では、
「東水の1番目のマグロは25万を超えるともううちやま幸さん二社の争いになった。45万まで競ったが負けた。」
という。
結局、登喜丸のマグロは築地時代も含め東京都中央卸売市場歴代4位の、48万円/㎏の単価でセリ落とされ、今年の「一番マグロ」の栄誉を勝ち取った。

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図14 仲買の出す手やり。これは6を現しているが、単位が万なのか千なのかは分からない。

競り落とした仲買やま幸さんの最後の手ヤリは、親指を折りたたみ人差し指・中指・薬指・小指を同時に立て4を、次いて、親指・人差し指・中指を立て、薬指・小指を畳み8を表現したはずだ。
この4(よん)と8(はち)、「よんぱち」を4千8百と読むか、4万8千と解するか、四十八万と受け取るか、はたまた4百八十万にするのかは、セリ場の暗黙の雰囲気に委ねられているというから面白い。

無言の手ヤリとセリ人の甲高い応答の掛け声が飛びかう灼熱のセリ場で、果たして、そのマグロ一本丸ごとの値段を算じていた人が何人いたのだろうか?
その魚は落札後、1kごとに切り分けられることもなく、丸ごと一本台車に乗せられて、一軒の仲買に引き取られて行くのだ。
登喜丸のマグロは238キロになる大物で、セリ値の48万円の単価を乗じれば114,240,000円/本で、これもまた市場四番目の記録という。
マグロ一匹、一億一千四百二十四万円也。
今更、
「あのヤリは4万8千のつもりだった」
と、ごねてももう遅い。

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図15 落札後台車に乗せられた「一番マグロ」。
落札した仲買の名札(テイタン)とご丁寧にも荷主の船名と氏名入りのラベルも貼られている。


「一番マグロ」とは初セリで一番高く売れたマグロその物を云うと思われているようだが、実際の競りで使われる数字はあくまでもそのマグロのキロ当たりの単価。

その単価が一番高かった魚が「一番マグロ」と呼ばれ、魚の大きさに左右されない中身の質の良さで付けられた順番と云っていいだろう。
普通、1本当たりの最高額のマグロと㌔単価の一番高いマグロと同じくなる場合がほとんどだが、2018年の初セリで相違が生じている。
表1 日刊スポーツより

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重量190㌔・16万/㌔・3,040万円/本が「すしざんまい」が、重量450㌔・9万/㌔・3,645万円/本が「やま幸」がセリ落とした例がある。
「一番マグロ」はもちろん190㌔物になるのだが、この場合190㌔のマグロと450㌔の㌔単価に2倍近い差が出ている。
450㌔のマグロが余程身質が悪かったのではなく、「大きすぎて処理に困る」との判断が各買い手にあったのかも知れない。
ちなみに、先の今年の一番マグロを最後まで争った静岡の業者の落札した「今年のニ番マグロ」は、1月4日に水揚げされたやはり大間のもので177キロ、単価30万で総額5,310万だったそうな。

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図16 銀座回転ずし店に搬入され、回転レーン越えをする「一番マグロ」

さて、この「一番マグロ」銀座の回転寿司屋に直ちに運ばれ、「解体ショウ」を経て、トロ・赤身に握られ二貫セットで一般客に供された。
「貫」の解釈が昨今曖昧になっているため、「二貫セット」とは、トロの握り1個と赤身の握り1個が一つの皿に乗せられた商品と、定義しておく。

いくつもに切り分けられたコロは、海外も含めた幾つかの支店に運ばれたとの報道から、ロサンゼルスのお方でも召し上がる事が出来そうだ。
銀座本店の「二貫セット」は税込み1,080円/セットで供されたらしい。

2024/01/11 升
つづく
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図17 第一登喜丸船上でマグロに銛を打ち込む真一と房次郎

画像17は東宝映画「魚影の群れ」から、その他の画像はTV東京{日曜ビッグバラエティ「洋上の激闘!巨大マグロ戦争2024」}から拝借しました。

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2024/01/15

「こちら第三登喜丸」Ⅰ

暗闇に覆われた青森県下北半島東部のある漁港。
午前0時32分、沖合から緑色と赤色の小さな明かり「航海灯」だけをつけた漁船がエンジン音を響かせて近づいてきた。
漁船に合図を送るように岸壁のトラックが一瞬だけライトをつけた。
保冷車とみられるそのトラックは1時間ほど前から待機。
船はトラックの荷台扉部分にぴったりと位置を合わせて着岸した。
「無報告マグロを夜に水揚げしている港がある」。
東奥日報に寄せられた情報。
2021年11月上旬、本紙取材班は青森県大間町外の港で、男性3人がかりで大きなマグロをトラックに積み込む場面に遭遇した。
3人は漁船に備え付けられた引き上げ用ウインチで大きな魚体をつり上げ、手際よく荷台に積み入れた。
少なくとも5匹。
作業は20分程度。
トラックは走り去り、漁船もすぐに港を離れた。
かすかに読み取れた船名を基に後日、その船の関係者に大間町内で写真を示すと…
―Web東奥日報2023/3/28より抜粋―


大間の町では師走に入って大きな問題を抱えていた。

津軽海峡を行き来するクロマグロは、太平洋クロマグロという仲間に分類されていて、ニューギニアから日本沿岸そしてアメリカ大陸西海岸と大海原を大回遊する魚であるがためにその資源管理を国際的におこなうことになっている。

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図1 太平洋クロマグロの回遊図(水産庁HPより)

一時は乱獲のために絶滅を危惧された、太平洋クロマグロの資源回復を図るため、近年では中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)で協議し、各国に漁獲可能量(TAC)を割り当てている。
TACは沿岸漁業にも適用され、日本では2018年から直近数年間の漁獲実績の平均値を基に、国が都道府県→各漁協→各漁船へと配分している。
つまり、大量のマグロがやってきても、いくらでも水揚げできるわけではない。
仔細はこちら、水産庁HP参照下さい) 

そんな背景の中で、大間漁協などに所属する漁業者が2021年度のクロマグロ漁獲量のうち計92.2トンを県に報告していなかったとして、大間町の水産物卸売会社2社が漁業法違反罪に問われ、2023年7月、両社の社長を懲役4月、執行猶予3年とする青森地裁判決が確定した。
ちなみに、このマグロは静岡市の中央卸売市場の卸売会社が「ブリ・他鮮魚」の品名で荷受し委託販売して、市中に流していたというから驚きだ。
事件の制裁は買い手だけにとどまらず、この2社にマグロを売った大間、奥戸(大間町)、大畑(むつ市)の3漁協の漁業者22人と漁業関係法人1社も、漁業法違反の罪で罰金20万~10万円の略式命令を受けていた。

なお、定められた漁獲枠を越えてしまった場合は、通常過去数年実績から定められる、翌年の魚獲枠から差し引かれるとの決まりがある。
従って、大間町内の漁業者からは、大間漁協全体の漁獲枠が減らされるとの懸念から、この年末年始に初競り用のマグロ漁に出られなくなるなどの影響を心配する声が上がっていた。
だが、漁獲枠から超過量を差し引く国の手続きに一定の時間を要するため、24年の初セリ(豊洲市場)に出荷するマグロ漁は通常通り行えることになったという。ーWeb東奥日報より抜粋ー



スルメイカの資源的減少の影響で漁で使う活き餌もそれまでの主流であったスルメイカから近年は爆発的に増えたサバに取って代わったほか、漁法その物も変化を余儀なくされた。
大間の伝統的なマグロ漁は、かつて、吉村昭著の短編小説「魚影の群れ」で描かれ、緒形拳主演で映画化され、緒方自身の手で行われた漁の一部始終の映像にあるような、「ぶっつけ漁」と飛ばれる一本釣りである。
津軽海峡を日本海から太平洋に、ある時は太平洋から日本海に抜けていくマグロの群れの影をいち早く見つけ、その行く手を遮断するように追いかけ群れの先頭に釣り針を投げ込みマグロの喰いつきを誘う勇壮な漁法である。

Photo_20240111114001図2 大間の一本釣り 第三登喜丸船上の房次郎

ところが、スルメイカの減少と共にイカを摂餌するために津軽海峡に留まるマグロの群れがいなくなり、マグロの漁場は大間から十数時間走る海峡から出た太平洋沿岸に移った。
それまで、夜餌を釣り一旦戻って仮眠をむさぼり、翌早朝にマグロを追って船を出し、夕方に帰港するといった近場の一本釣り漁の半日コースの生活サイクルは一変し、一仕事に丸一日24時間を要する事になり燃費もかさんだ。
若い漁師たちがその漁業に耐え得る漁法である「延縄漁」を積極的に取り入れた事は必然的である。

大間漁港では豊洲の正月初セリに上場できるマグロの水揚げ期間は組合の取り決めで、12月27日から31日の午前中までと年明け三日の夕方から翌午前中までと定められている

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図3 大間漁港を出港する第五十七登喜丸

12月30日16時、真白い船体の第五十七登喜丸は船頭の正義さん親子を乗せ静かに夕闇の迫る大間の漁港を後にした。
この船は延縄漁を取り入れた船で、昨年・おととしと2年続けて豊洲の初セリで「二番マグロ」を釣り上げた実績ある船。
今年こそ「一番マグロ」を、との意気込みは人一倍だ。

途中、魚探とソナーを駆使しイワシを追うサバの群れを見つけ集魚灯を点灯してサバを寄せて釣り、備え付けの生け簀に活きたまま収めた。
マグロ漁に欠かせない活き餌になる。

下北半島東端尻屋崎(東通村)沖の漁場に到着し早速投縄、幹縄の長さ、針の間隔、エサのかけ方、ハリスの長さは企業秘密だ。
およそ1時間後に揚げ縄を始める。

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図4 漁場で集魚灯を点灯した第五十七登喜丸

幹縄がラインホーラーで巻き上げられてくる。
と、幾本のハリスが絡み合って揚がってきた。
1本の針に喰らいついた魚が暴れ回りまきこんでいる証だ。
重いハリスが揚がってくる。
軍手を履いた正義さんの両の手がしっかりとハリスをつかむ。
「喰ってら!」
「来たか?」
「まだだ」
「大きいな、これは」
「ほら、来ないもん!」
「頼むど」
「大きい・・・」
「頭の振りが・・グッ、グッ、グッ、グッ、振りが大きい!」
格闘15分。
「来たべっ」
電気ショッカー投入。
「おお、効いたべぇ」

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図5 水面まで引き寄せられたクロマグロ

黒い海の中からポッカリと銀色の塊が浮かび上がってきた。
「突けっ!」
長男の正真が銛を頭にぶち込み、ギャフを顎に引っかけ、ウインチを使って船上にあげる。


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図6 船のウインチで舷側に引き上げられたクロマグロ
「やっちまったんじゃないの?」
「230はあるかな」
マグロは電気ショック及び銛を急所に打つことによって既に仮死状態で船上に引き上げられてくる。
直ちに延髄に穴をあけて脊髄にワイヤーを差し込み神経抜きを行い、尾を切断して血抜きを施す。
さらに、腹を開いて鰓・ワタを取り除き、水氷で急速に冷却する。
これらの手順を15分以内に行わないと、鮮度の低下および身肉の褪色が進み魚価を下げることになる。

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図7 大間漁港に凱旋帰港する第五十七登喜丸
 
すべての処理を迅速に行い帰港、31日組合の締め切り時間に間に合った。

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図8 登喜丸から水揚げされる238㌔のクロマグロ
接岸後、待ち受けていた漁協の職員の下で魚槽からフォークリフトで釣り上げられ処理場で検貫、正義さんの目分量通り238㌔だった。
鰓腸除去後の重さなので生体は250㌔はあったものと思われる。


第五十七登喜丸の揚げたマグロの他27日からこれまで大間で水揚げされたマグロは、棺桶の様な木箱に収められて、漁協の冷蔵庫で保管される。
そして、年を越したこれら31本のマグロは1月4日午前8:30、チャーターされた大型冷蔵車に積み込まれ大間を出発。
国道279号線を津軽海峡沿いにしばらく走り、下北半島のカマの付け根を横切ってむつ市内に入り、陸奥湾を右手に走る。
むつハマナスラインの横浜町から下北道を通り野辺地から上北自動車道で八戸に入る。
ここまで150㌔およそ2時間半の行程だ。
八戸で八戸自動車道に乗れば後は高速道路をひた走る。
岩手県の安代JCで東北自動車道に合流し、仙台手前で常磐道に乗り換える。
八戸から300㌔弱3時間半、2回目の休憩になる。
常磐道をひた走り三郷から首都高に乗り継げば豊洲はもう目の前。
総延長800㌔、途中休憩を入れて14時間の旅、4日の日付が変わる前には市場に入れる。

2024/01/11 升
つづく


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図9 マグロを引いて戻った第3登喜丸の房次郎、迎える登喜子
画像①は水産庁HPから。
画像②・⑨は松竹映画「魚影の群れ」から拝借。

その他の画像はTV東京{日曜ビッグバラエティ「洋上の激闘!巨大マグロ戦争2024」}から拝借しました。


 



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2023/12/11

海洋学部の通学船

母校東海大清水校舎では、昨年(2022)年4月よりJR清水駅前からキャンパス前まで、東海大学生専用の「通学船」を運航している。
「潮風を感じながら富士山を眺め、運が良ければイルカにも出会える」が売りの「通学船」だ。

東海大は、「三保の水族館」として親しまれた海洋科学博物館と自然史博物館を施設の老朽化を理由に、今年(2023年)3月有料入館を終了した。
同大は、周辺にあった三保文化ランドも2000年に閉園しており、1970年代から維持してきた三保半島先端の「遊んで学べる施設」は全て閉じることになった。

運航は、清水港と西伊豆土肥港を結ぶ駿河湾フェリーの富士山清水港クルーズ㈱に、委託している。
富士山清水港クルーズ㈱は、フェリーの他駿河湾内の観光船やJR清水駅⇔三保への水上バスの運行も行っており、両博物館の事実上閉館に伴う利用客の減少を補う形となったようだ。

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図1 通学船運行図

利用対象は、本学静岡キャンパスの大学生・大学院生等の他、教職員も対象になるらしい。
運航ルートは、JR清水駅前(江尻のりば) ⇔ 折戸キャンパス前(折戸のりば)で、折戸からJR清水駅前行の便はエスパルスドリームプラザ(日の出のりば)を経由する。
いずれも所要時間は約20分。

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図2 江尻のりば(JR清水駅裏)前の観光施設 駅みなと口(東口)徒歩5分 4月にここでカツオを買った。
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図3 江尻乗り場に着岸する「ベイプロムナード号」193t 定員343名

運航日は、2023年度秋学期は2023年9月21日(授業開始日)~2024年1月30日(定期試験最終日)の授業実施日(補講日含む)、定期試験実施日
さらに、運航本数は授業時間に合わせて1日9便程度と完璧に学生生活に密着しており、授業あらば祭日運行も可としている。

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図4 ベイプロムナード号乗船口
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図5 ベイプロムナード号の豪華船内

乗船賃は、①2023年度秋学期定期乗船券 25,000円、②乗船券(10枚1セット)3,000円で、静鉄バスJR清水駅~東海大前(片道25分)運賃340円よりも速いしお得だ。

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図6 望星丸Ⅱ停泊中

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図7 折戸キャンパス前(折戸乗り場)到着

折戸キャンパス1号館1階[スルガベイカレッジ静岡オフィス (総務)内]の会計窓口にて、学生証を提示の上、利用料金を現金にて払う仕組みで、
卒業生だと息巻いても乗せてもらえない様だ。

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図8 岸壁沿いに左に歩き

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図9 ゲートを右折して突き当りがもうキャンパス

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図10 あっという間に正門前
富士山清水港クルーズ㈱は、2022年3月の時点で関係各機関宛てに下記内容の挨拶状を送っていることからも、当該「通学船」運行への意気込みが感じられる。
                     

東海大学さま専用通学船の運行開始のお知らせ

平素は格別のご愛顧を賜り厚く御礼申し上げます。
弊社では、2022年4月より江尻~折戸~日の出~江尻の間を東海大学さま専用通学船の運行を開始するため各種準備をしているところです。運行ダイヤに付きましては、東海大学さまからの指定日(授業・試験期間、特別行事等で年間200日程度)を別記時刻表例等により運行いたしますので、ご案内申し上げます。なお、本航路は通学船用航路であり、一般の方にはご利用いただけないため、皆様にはご不便をお掛け致しますがご理解の程、何卒宜しくお願い申し上げます。以上

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図11 帰り船はフェルケル号(18t 定員89名 青色)orケーエス号(15t 定員81名 緑色)


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図12 往路船ベイプロムナード号は係留したまま

運賃は回数券で300円/片道とバスより40円も安い。
一方の定期券はその考え方が面白い。
一般の公共交通機関の「定期券」は、一か月~六か月、月単位の特定区間乗り放題券であるのに対して、「通学船」のそれは、大学の学期+授業日に合わせた日時で発行されている。
案内にあるように、9月21日から翌年の1月31日までの「秋学期」の授業日を75日として往復利用した場合、25,000/(75×2)≒167円が片道料金となって更にお得だ。

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図13 船室はこんな感じ、学生にはちょうどいい
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図14 カモメが付いてくる。海洋学部の学生ならば間違っても餌付けしないように!

問題は、運賃はともかく通学者個人の利便性だけに絞られそうで、現状では、JR清水駅周辺徒歩圏内およびJR利用の通学者しかその恩恵にあずかれそうもない事だろう。
キャンパス内車両乗り入れ自由な時代で、車通学で学生生活を過ごした私には、今の学生生活を伺い知ることは出来ない。

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図15 保安庁がなにか取り締まっている。船体のブルー3本斜線はSの文字。

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図16 日の出乗り場着。土産物屋が集まるエスパレスドリームプラザがある。

昨年から折戸キャンパスに開設された「人文学部」(募集定員180名)と海洋学部の定員と合算すると1学年530名、4学年合計で2,120名、院生・教職員を合わせると総計は2,200名程か?
運行会社では、1日、その総数の1/5の利用者を期待しているという。
そして、その全員が定期券を購入しても年間2,200万円程度にしかならない。

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図17 日の出乗り場(富士山清水港クルーズ㈱ の本社がある)で6分停船後、江尻ふ頭に到着。お疲れ様。
<2023年度秋学期授業期間中(2023年9月21日~2024年1月23日)の時刻表>
Photo_20231211165701※定期試験期間は、定期試験の時間に合わせた運航となります(下記参照)。
※日曜・祝日、夏期・冬期・春期休暇中は運航しません。なお、祝日の授業日は運航します。
※天候等の理由により欠航する場合は、在学生・保護者向けポータル(TIPS)にてお知らせします。
はたして年間2,200万円で船舶を維持できるのかどうか私には判らないが、清水港と三保半島そして海洋学部存続発展のため、静鉄バスと競合しないレベルで、ご尽力願いたいものだ。
2023/12/11 升

引用文献および画像:学校法人東海大学HP内静岡キャンパスより
注)東海大は現在、その昔静岡県清水市折戸にあった「海洋学部折戸校舎」を、静岡市清水区折戸の「静岡キャンパス」と名付けているようです。
なんだか悲しいです。

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2023/11/27

クロ現から(飼料と餌料)2

エサと餌料と飼料

養殖事における製造原価の7割がエサ代であると、先の有路近大教授は述べていた。
ウナギの様に種苗が異様に高額な対象物や、プラント設備に多額の投資を要する特殊な陸上養殖を除いて、7割という数字は多少なりとも誇張はあると思うが、換言すると、人件費を含めたその他の経費を極限まで切り詰めた、いいや切り詰めなければやっていけない、結果の数字の様に思う。

そして、エサ代を圧縮せしめる方法の一つに、より成長が早く疾病に強い魚に改良する「育種」という技術の促進を促した。
ブリ養殖に関しては、この他「依存していた天然種苗が獲れなくなってきた。」という問題があるらしいがこの議題は今回省くことにする。

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図1

先の図1では、ノルウェーサーモンはエサ1kで1kの魚が出来るのに対し日本ブリは0.3Kしか生産できないという。
この表現をNHKが使ったのには意味がある。
この業界では、
飼料効率(%)=生産量(増肉量)/与えたエサの量×100 を使うか、
増肉係数=与えたエサの量/生産量(増肉量)
の何れかで表すのが一般的である。

図1の場合、サーモンの飼料効率は100%ブリのそれは30%、増肉係数はそれぞれ1と2.5~3.33の値になる。
飼料効率の数字は研究者レベルでよく利用されているが、養殖のほとんどの現場では増肉係数を使用する。
つまり1tの魚を生産するのにどれくらいのエサが必要かの計算がすぐに出来き、さらにその回答にえさの単価をかければエサ代が直ぐにわかるという理屈。

「エサ1kでブリ0.3K」ではピンと来なくても、「ブリ1k作るのにエサ3.4k」を一見した視聴者は「そんなに!」と悲鳴を揚げたかもしれない。
この番組では、「エサ」に関する不都合点に一切触れたくないようであったから、表示方法に苦慮したに違いない。

さて、いよいよ「エサ」に触れなければいけなくなった。
番組出演中のサーモンあるいはブリに与えている「エサ」とは何か?である。
HKは番組中ついにカタカナの「エサ」で押し切ったのには意味がある。

魚を飼育する際に与える「えさ」は、現在「餌」・「餌料」・「飼料」の三つに分類されている。
それぞれの定義を調べると様々な見解にいきついてしまう。

飼料(しりょう)とは、家畜、家禽、養魚などの飼育動物に与えられる餌をいう。主に、養鶏や畜産など事業として飼育される家畜に与える餌を指すことが多く、養魚用は「餌料(じりょう)」と呼び区別することがある。―ウイキペディアより―

養殖に使われるエサは「餌料(じりょう)」と「飼料(しりょう)」に分けられる。「餌料」とは、生や冷凍の小魚をそのまま与えるエサのこと、「飼料」とは人工のエサのこと。ー中平博史 全国海水養魚協会 専務理事「養殖ブリの餌とは?種類や与え方が知りたい」YUIME Japan編集部 / 2022.11.25 よりー https://yuime.jp/post/bigin-aquaculture-yellowtail-feed

『飼料』とは、生き物を飼育するために作られた合成資材のこと。『飼料』は成魚を飼育するためのエサで、孵化したばかりの稚魚のエサにはならない。
これに対して『餌料』はエサになる生物そのものを言います。乾燥製品を指すこともありますが、一般的には生きている生餌 が『餌料』。
自然界ではすべての稚魚がこの生餌を食べて大きくなる。『餌料』は稚魚を飼育するためのエサ。ー餌料生物について (plala.or.jp) http://www8.plala.or.jp/wamushiya/aboutjiryou/aboutjiryou.htm

餌料は養殖魚介類に与える食物を呼ぶ習慣があったが,配合飼料の普及とともに,自然界に存在するものを餌料(天然飼料)と呼ばれるようになった。
魚の養殖に使われる鰯やこうなごなどは生餌(なまえ)と呼び,積苗に与える輪虫やアルテミアなどのプランクトン類は生物餌料と呼んでいる。ー(畜産の研究第 62巻 第 10号 (2008年):株式会社 養賢堂 飼料学 (52)  熊倉克元本 ・ 石 橋 晃..ーhttps://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010762722.pdf

等など様々な言い分がある。

念のため、角川漢和中辞典で「飼」を紐解くと、
シ か 食べさせる意をもつ。飼う 飼い葉
字義a.やしなう。人に食を与える。
  b.かう。動物を飼い養う。

「餌」は、
ジ え もと米の粉で作った団子のこと。
後にもっぱら飼に通じて用いられるようになった。
字義a.食物の総称。
b.動物の飼料。
c.魚をつるえさ。
d.人を誘い出すためのあてがい物。
e.くわせる。⑥利をあたえて人を誘う。
f.もち・だんご。
g.肉の筋。

と記載され、文学的には「餌」の方が使い勝手が多そうだ。

いよいよ判らなくなったので、日本の水産研究機関の総元締めたるFRA(国立研究開発法人水産教育研究機構)の見解を尋ねると下記回答が広報担当者から返って来た。

餌料:動物プランクトンや植物プランクトンなど生きているものをエサ(生物餌料)とする場合に用いています。 例えばワムシ(輪形動物)からアルテミアをあたえる「餌料系列」はこうなりますとかの表現です。
飼餌料:稚魚を育てるときに生物餌料と配合飼料を与えて育てるとき。例えばワムシ(輪形動物)からアルテミアをあたえ、日齢40日から徐々に配合飼料に餌付けして育てる場合などは「飼餌料」と表現。
飼料:生きていないえさ、例えば魚粉由来の配合飼料などはその一つ。ウナギを養殖するために魚(すでに死んでいる冷凍魚や乾燥魚粉)由来の飼料を与えている。などです。


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私は②の<「餌料」とは、生や冷凍の小魚をそのまま与えるエサ、「飼料」とは人工のエサ>を支持している。
で、何が言いたいかというと、図1の「エサ」とは果たして「餌料」なのか「飼料」なのかということ。

人工の餌とは、魚粉を主体にその他の栄養素を混ぜあわせ成型後乾燥した、いわゆる配合餌料をさす。
家畜は空気中で摂取するので粉末でも構わないが水棲生物には水に溶解しないような工夫が必要になる。

先ず、魚その物や人が食べた残りの頭や骨・内臓等を乾燥して微粉砕した粉(魚粉)がある。
生の魚貝類のミンチにその魚粉と油脂やミネラル剤を混ぜ合わせて粒状に丸めたものを、モイストペレット(MP)と呼びんでいる。
次いで、魚粉に同じく油脂やミネラル・増結剤そして水を加えてねり合わせ造粒機で押し出し乾燥したものがドライペレット(DP)。
さらに、エクストルーダーと呼ばれる造粒機械を用いて、高温かつ高圧で押し出して造粒し、乾燥したものをエクストレーダーペレット(EP)と呼んでいる。

EP飼料は観賞魚用の餌にも使われていて、我が家に6年暮らしている全長25㎝を越えた東錦(金魚の品種)はこの製造法で造られた「浮上性」のペレットを毎日食べている。
でんぷん質を消化しやすいα化にすることが出来、多数の小さな穴が空いていて水面に浮かせたり、沈降速度をコントロールすることが出来るため食べ残し等のロスが少なく現在最も優れたエサといわれている。

話を元に戻そう。
結論から言うと、図1で使用されている「エサ」とは、最も餌料効率の高いEPなのである。
配合餌料(マッシュ・DP・EP)は変質・腐敗しないように乾燥させているので水分は極わずかである。

そこで、単純に「EP(飼料)」量を「生餌(餌料)」量に換算すると、
餌料重量=配合飼料重量/{1-0.7(生魚の水分含量)}となる。

これを、図1の「えさ」量に当てはめると、サーモンで3k、ブリで8.4~11.1kになる。
増肉係数で言えばサーモン3,ブリ8.4~11.1だ。
この数字をNHKの示した図1の表現に改めると、「1kの餌料でサーモン91gの成長」あるいは「1kの餌料でブリ27g~37gの成長」となる。

こんな数字を一見した国民は「そんな不効率なことやめてしまえ!」と怒るに違いない。
ちなみに、私が長年養殖に携わっていたクルマエビの場合、増肉係数はDPで3、生餌においては15が標準であった。

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本来ならばここから「飼料」主原料の魚粉の現状について論点を移さなければ報道の着地点に到達しない。
今回、NHKは「エサ」と云うカタカナを餌にしてその後の議論から上手に逃げたと言える。
なぜならば、魚粉のほとんどが人が摂食可能な天然魚から生成されているからである。
これが私がかねてから発言してきた「魚介類養殖は歩留の悪すぎる水産加工」たる現状なのだ。

食料危機が叫ばれ、年間7億人超の人が飢餓に瀕している状況で、人体の成長・維持だけを考えた時、イワシ肉11キロを加工してブリ肉1kに換える行いは、一部の美食家を満足させるだけの愚行に位置付けられてしまうだろう。

番組内で、『「エサ」の値段が上昇中』のとの発言があったが、その理由は、魚粉の原料たる天然資源の減少ばかりでなく、日本・ノルウェーだけでなく今や世界中の国々が魚貝類養殖用の飼餌料を求め、買い集めているからに他ならない。

この議論を全く敬遠してNHKの報道番組が終わってしまったのはまことに残念なことだ。
だが、当然水産経済に携わっているすべての良識者は早くからこの問題を周知して、その解決に努力している。
魚粉に委ねているタンパクを植物由来に置き換える事はもちろん、食魚から生じた残滓(頭・骨・内臓等)の利用、など既に実用に供しつつある。

私の勤めていた魚の加工場でも20年程前は残滓を廃棄するために廃棄料を支払っていたが、いつの間にか1円/1kで買い取るという業者が現れ、やがて競合業者が出現するたびに買い取り値が上昇していった。
行先はもちろん飼料製造工場。

この様に、養魚用の飼餌料を取り巻く地球的環境を指摘することなく、養殖業の餌料費にかかるコストダウンの方向を魚自体の性質の改良という「育種」一言で片付けてしまったことは重ねて残念な事である。

植物由来のタンパク100%の飼料で魚が養える様になるのが当面の課題となっていて、既に魚種によっては実験に成功していると聞く。
しかし、その大量なタンパクを作り出す為の農地や水、気温、日射量は充分なのか?
既存の農業経済の妨げにはならないのか?
疑問が生じる。

グローバルな考え方で一つ私的な提案がある。

魚貝類の種苗生産の基本的技術の一つに、植物プランクトンの培養がある。
植物プランクトンは孵化直後個体の直接の餌になる場合もあり、さもなければ二次的に動物プランクトン培養の餌料になる重要な生物であって、この培養の成否が種苗生産事業全体の成否に繋がると言っても過言ではない。

すなわち、食物連鎖の底辺に位置する生物。
植物プランクトンの「種(たね)」はそこいらの海水中にいくらでも混在している。
種「しゅ」にこだわらなければ海水を汲んで施肥を施し、明るいところに置いておけば「たね」は数日で細胞分裂を繰り返し、海水に色をつけるほど繁茂する。

ほとんどの魚の初期餌料に利用されているシオミズツボワムシの餌になるクロレラの培養も、クルマエビのノ―プリウスからゾエアに変態後の最初の食べ物である珪藻の培養も、1tの海水に対し硫安100g・硝酸カリ15g・尿素5gの農業用肥料を、海水に溶解するところから始まる。

自然界では、繁茂した植物プランクトンを食べる動物プランクトンが増え、その動物プランクトンを食べる小魚が増え、小魚を食べる大きな魚が増える。

この考えを応用して私は、瀬戸内の塩田跡の池に海水をたたえ、肥料を撒き、そこにその閉鎖環境の食物連鎖の頂点であるトラフグの孵化仔魚を放し、数百万尾を養殖種苗として流通するサイズまで、勝手に成長させることに成功している。

サンマや鮭鱒類に代表される北方系の魚の激減原因は特に稚魚期の餌の減少が原因であると云われている。
地球の温暖化に伴い、海水面の急激な冷却が緩和され、水温による上下比重の逆転から起こる対流が抑制されることによって、栄養塩を沢山蓄えている深層水の表層への浮上がなくなり、表層の食物連鎖の底辺たる植物のの増殖が失われている結果だと私は考えている。

沿岸海域においても、半世紀前には、人の営みによって流れ込んでいた汚物の垂れ流しによって赤潮の被害を被るほど沿岸海水は冨栄養化していたが、それでも干潟の砂を掘ればアサリが沢山獲れ、沿岸漁業は潤っていた。

いま、流入河川の浄化システムの進歩によってなるほど海は清透な海水に満たされるようになったが、果たして食物連鎖の底辺に供給すべき栄養塩類の欠乏を、ただ招いているのだけなのかも知れない。

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気象庁HPより拝借

水産は農業よりうん十年遅れていると、かつて京都大学の先生が、おっしゃられていた。
荒れた大地に肥料を撒くように、資源の乏しい海域に施肥をしたらどうだろう。
まず、オホーツク海流樺太沿岸海域あるいは親潮上流の千島列島東部海域から実証実験を始めてほしい。
褐色に混濁した潮の流れが、網走から知床半島へ、根室から東北沿岸に、達するのを心待ちにしよう。

どこかで検討されているのだろうか。
FRAで貫禄不足ならFAO(国際連合食糧農業機関)に持ちかけるべきか。
2023/11/27 升

参考文献:高知大学 水族栄養学教室ブログ 
水族栄養学研究室のBlog2 (kochifishnutrition.blogspot.com)

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2023/11/23

クロ現から(飼料と餌料)1

1.クロ現から
NHKの主力(だった)アナウンサーがドンドン地方局や民放に流出していく今、大好きだった膳場貴子さんの再来かと思われるセクシーなアナウンサーが昨夜の「クローズアップ現代」の進行役を勤めていた。

助平心で調べたら、80年代にやはりセクシー路線で世間の男性を騒がした民放キャスターの三雲孝江さんのお嬢さんで、星麻琴という礫としたNHKのアナウンサーだ。

同期の中山果奈さんや林田理沙さん等と東京アナウンサー室に勤めていて、普段は「日曜討論」の司会を勤めているらしいが、かたぐるしい番組を見ない私には初お目見えとなった。

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「世界を魅了!日本の魚 市場の急拡大と変わる食卓」と題したこの日の番組は、ロサンゼルスのレストランで黒人の女性が皿に盛り付けられたブリカマのステーキをナイフとフォークで召し上がり、美食にうっとりとした彼女の口から「Heaven、地球上で最高よ!」と言わしめている”衝撃映像”から始まる。

以下報道内容をTV画像をお借りして要約した。
なお、NHK+で11月29日まで試聴できるようだ。

日本産鮮魚は今海外で人気で、アメリカのブリ、インドネシアのマダラ、ベトナムのカマス、シンガポールのイワシ、バングラデシュのコノシロ・ボラ、コートジボワールのニシン、タイやスリランカのサバ、ナイジェリアのスケトウダラ等、輸出先によってお気に入りの魚種も様々だと言う。

日本の水産物の年間輸出金額は3800億円、この10年で2倍に増加している。
原因は、人口増加に伴った食料資源の一翼を担う、魚介類の世界市場の拡大にある。
世界の水産物の生産量は30年で2倍の20,000万トンに達している。
しかし、10,000万トンに満たない天然物は資源の限界がありほとんど横這い状態。
生産量の増加分は同期間で7倍に増えた養殖物で補っているのが現状であり、今後一層の養殖物への期待が高まっている。

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日本産ブリの一大輸出国はアメリカで特に日本人が比較的避ける腹身を「Yellowtail belly」と呼んで特に好まれているという。
鹿児島で年間50万尾の養ブリをアメリカに輸出している養殖業者は、アメリカの食品会社を買収までして物流ル-トを拡大させ、成長産業として事業拡大を続けている。

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一方、天然魚の水揚量がが減少傾向にある中日本各地で水揚げされた、日本では余り商業価値のない、天然魚を東南アジアやアフリカへの輸出拡大を図る業者も現れている。

そんな日本のライバルとして台頭してきたのが、官民一体の努力でアトランティックサーモンの養殖魚の輸出高が1兆円を越えたノルウェー。
次なる戦略、ブリの仲間のヒラマサを陸上自動養殖システムで大量生産する計画、が自国およびアメリカ国内で始まっている。
サーモンよりも成長が早いなどより安価に生産出来る道が出来ているとしている。

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日本の輸出水産物を金額をベースで分けると、ホタテ、ブリ、真珠の順になる。
真珠は海の中で出来るがこの場合食用ではないから省くべきだろう。
そして、輸出先は中国、香港、アメリカの順になっている。

近大世界経済研究所教授 有路昌彦氏の話では、
原発事故処理水問題で中国と香港が輸入禁止としている現実はあるものの、世界的には水産物の市場は広がり続けているので、日本はまだまだ輸出拡大戦略を図る必要があるとした。

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生鮮魚貝類消費者物価指数は年々増加しているにも拘らず、日本人の購入量は年々低下していて、生鮮物の国内市場は減少傾向にあり、この様な現状から産地や日本の経済を活性化するためにも輸出を促進させる必要がある。

そういった中で、生鮮物を如何に鮮度を高く維持したまま遠方へ運ぶための、輸送時間の時間の短縮や、輸送システムの新たな構築に向け様々な試行錯誤をもなされている。

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うまければ金に糸目をつけない富裕層が沢山いる東南アジアでも、ブリの刺身一切れ300円等という法外に高い末端価格で現在は売れているが、継続性は望めなく何れ淘汰されてしまうであろう。

従って、コストを下げる努力の中で、一番重要なものは製造原価の7割を占めしかも値上がりを続けている、餌代の削減に勤めることが喫緊に迫られている課題である。
餌代を押さえる為に育種という手がある。

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ノルウェーのサーモンではエサ1kで魚肉1kを作っているのに対して、日本のブリは同量のエサで0.3kから0.4kが現状である。
これは、成長が早く病気に強い品種の改良(育種)がまだ充分に行われていないためで、その意味で日本におけるブリ養殖の世界市場での伸びしろがまだ残っていると言える。
ちなみにマダイが年々安価になりしかもより美味しくなったのもこの育種のお陰だ。

こうして国際競争力を高めた生鮮魚貝類の輸出拡大は、国内流通品の価格低下にも直接繋がり国内消費者にとっても有利であるばかりではなく、生産拡大に伴った沿岸漁業地域の経済発展に大きく寄与し、果ては日本経済全体の底上げに繋がると考えられ、官民一体で取り掛からなければいけない。

2023/11/23 升

これは2.へ続きます。

 

 

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2023/10/10

沖縄モズクの三杯酢

1977年恩納村でようやく初水揚げを成した沖縄の養殖モズクはその後順調に生産量を増やし1990年に1万トン、1999年には2万トンに達し、全国のモズク流通量の99%を沖縄産で占めるようにまで成長した。

この産業成長の一大転機となった1998年に、私は偶然にも沖縄モズクの流通現場で、営業職を担っていた。
この前年に沖縄モズクが当時問題化されていた病原性大腸菌O-157への抗菌性を持つことが発表され、さらにモズクを含めた海藻類の接種で血液循環を改良するといった内容がメディアで取り上げられ、一大ブームに祀り上げられた。

同時に、何の因果か沖縄モズクの大不作が沖縄県の沿岸を襲った。
例年の1/10の水揚げに終わる漁場が相次ぎ、流通業界は混乱した。

私はこの年、市中央卸売市場の水産荷受のなかの寿司種等を扱う特種課の営業に籍を置いていた。
業務は全国の生産者から委託を受け市場内の仲卸業者へ販売するもので、営業職とはいわゆるセリ場のおっちゃんである。
三陸沿岸の活き殻付きホタテや静岡のニジマス等の他、沖縄産モズクの加工品(味付け3連パックなど)も私の担当アイテムの一つだった。

味付けモズクの取り扱い量は僅かだったが、販売先は全て常連の固定客。
体に良いと全国ネットでテレビ報道が相次ぐと、流石に早朝のセリ場で、見知らぬ仲買に声をかけられる機会が多くなる。
普通、この特種課は鮮魚を扱う仲買店が殆どの取引先なのだが、見知らぬ仲買の多くは塩蔵・塩干品や加工品を扱う業者で、一様に「俺んとこにも売ってくれ」とのアプローチ。

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新米かつ腰掛営業職の私は大喜びで沖縄モズクのメーカー(荷主)にその由を伝え、出荷量倍増を要請した。
荷主の窓口担当はうる若き声を持つ女性だったのだが、喜ぶどころか悲鳴を上げた。

「無理です!」
「えっ?」
「ないんです、原料が!」
「うっ」
「新規どころか、明日から出荷量を絞ります。」

情け容赦のない毅然とした対応だった。
ないものは本当にないらしく、ニュースなどでも沖縄産モズクの極端な不作が報道されるに至って納得した。

だが、「ない」で済まされないのが信用第一の流通業界。
絞られた荷物を口八丁手八丁で仕分け販路を維持しながら拡大も同時にした。
すなわち、大口ひいき客相手の販売量を絞り、新規業者には「あんたにだけ特別に」である。

この仕分け作業は仲買がまだセリ場をうろつき出す前に密かに行う必要があり、私はこのためだけに連日モズクを積んだトラックが到着する午前1時にセリ場に向かった。
もちろん、メーカーには「搬入車の遅延は許されない」を約束させた。
この「あんたにだけ特別に」は微妙な蜜月関係を産み、モズク以外の商品の販売量も以前より増え、モズクの売上金額減を埋めるに充分に値した。

ある日のこと、トラックが来ない。
02時になっても、03時になっても来ない。
メーカーに電話してもこんな時間「本日の業務は終了致しました。御用の方は・・・」で埒があかない。
結局トラックが付いたのはセリ開始間際の04時半。
すべての仲買がワンワン見守る中「あんたにだけ特別に」モズクを乗せたパレットが降ろされた。

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仲買達の罵声を一身に浴びた私は、その恨みを9時にようやく出社してきたと思われるメーカーの担当女性に思いっきりぶつけた。
過去女性には幾度も泣かされたが、若い女性を電話口で泣かせたのは後にも先にもこの一回きりである。
2023/10/10 升

参考文献
地域漁業研究 2009号2第,巻49第
沖縄モズク養殖に係る作況予察手法の検討 -戦略的生産目標の構築に向けて-
中央水産研究所 水産総合研究 富塚叙

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